「赤い部屋」(江戸川乱歩)

自身の作風を模索していた時代の短篇

「赤い部屋」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩傑作選」)新潮文庫

真紅の重々しい垂れ絹で
飾られた赤い部屋。
そこには異常な興奮を求めて
七人の男が集まっていた。
その一人のTが語り始めたのは、
自身が行ってきた99人もの
殺人のあらましであった。
話し終えた彼が取り出したのは
一丁の拳銃…。

七人が集まっているのは
「赤い部屋の会」。
T氏の話の中で紹介されている
「会の活動」とは、
「犯罪と探偵の遊戯」
「降霊術その他の
心霊上のさまざなの実験」
「Obscene Pictureの映画や
実演やその他のセンシュアルな遊戯」
「刑務所や瘋癲病院や
解剖学教室などの参観」。
まあ、あまりよろしくない
猟奇的クラブのようなものでしょう。

本作品の読みどころ①
偶然を利用した殺人の妙

T氏が語る殺人とは、乱歩特有の
猟奇的な殺人ではありません。
偶然を利用した殺人なのです。
深夜の瀕死の怪我人の搬送先として
専門外の藪医者を教えたり、
危険な踏切を渡っている老人に
わざと大声で声をかけて
立ち止まらせたりといった、
他愛のないものです。
犯罪といえるかどうかの
絶妙な線での事例を
これでもかというくらい語るのです。
なお、乱歩自身の解説では、
この偶然殺人のアイディアは
谷崎潤一郎の「途上」から
ヒントを得たとのことです。

本作品の読みどころ②
おどろおどろしい雰囲気

「赤い部屋」の構造自体が
妖しい雰囲気を湛えています。
加えて乱歩の筆致も必要以上に
おどろおどろしさを強調しています。
そうした「雰囲気づくり」が、
偶然を利用した殺人の非現実性、
つまりそうした方法で
人間を死に向かわせるということには
少なからず無理が
あるのではないかという疑問が
読み手に生じることを、
巧妙に防いでいるのです。

本作品の読みどころ③
二重三重のどんでん返し

話し終えたT氏が取り出したのは
本物と見まごうほどの拳銃。
これが二重、三重の
どんでん返しを引き起こす
アイテムとなります。
詳しくは読んで確かめてください。

本作品の読みどころ④
徹底的なオチ

どんでん返しの末に
「オチ」にたどり着き、幕を閉じます。
「赤い部屋の中には、
 どこの隅を探してみても、
 もはや、夢も幻も、
 影さえとどめていないのであった。」

ミステリーというよりは
コントというべきかも知れません。
乱歩初期の、自身の作風を
模索していた時代の短篇です。
異色の一篇といえるでしょう。

(2019.6.9)

Steve BuissinneによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「赤い部屋」(江戸川乱歩)

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